こんにちは、かけるです。
記事執筆時現在は、整備士として自転車の組み立てや修理を行っています。
もう何年も前から、ディスクブレーキ搭載の車体割合がどんどん増えています。
ディスクブレーキの調整自体難しいわけではありません。
特に機械式ディスクよりも油圧ディスクの方がうんと簡単で、“精度”が良ければ「ブレーキを握りながら固定」するだけで、自然とブレーキのセンター出しが終わります。
パッドとローターが擦れて音鳴りもしません。
ただ…そう簡単にいくものばかりではないのが現状です。
フレームやブレーキの精度が悪く、調整に時間を取られます。なかなかうまい位置に来なくて、頭を抱える整備士も多いはずです。あるいは、個人でメンテナンスをやっている方でもセンター出しが上手くできずに悩んでいる方もいるでしょうね。
そんな時に何をしているのか?
ちょっと作業の様子を紹介したいと思います。
自転車ディスクブレーキ台座のフェイシングがなぜ必要か?【擦れるから】
「精度の良い自転車はすぐに調整が終わる」と言いました。
反対に「精度の悪い自転車」がどういうものか?
精度といってもブレーキ側、フレーム側ありますが、今回は“フレーム側ブレーキ台座の精度不良”の話をします。
普段のディスクブレーキのセンター出し
まず、基本的にディスクブレーキのセンター出しは(油圧なら)「握って固定」でこすらなければOKです。うまくいけばこれで終了。(機械式は手順が異なります。)
擦れる場合は目視でパッドとローターの隙間を確認しつつ、当たらない位置で固定します。
よく「どうやって擦らないよう、音鳴りしないようにするんですか?」と聞かれますが、“気合”です(笑)
1ミリあるかないかくらいの隙間とずーーーーーーーと格闘します。
ボルトを緩める→隙間を確認しつつ固定→車輪を回す→音鳴り発生…
を何度も繰り返し、ならない位置を探るしかないんです。
ゆえに精度の悪いディスクブレーキは時間がかかります。
フレーム精度不良により、センターが出ない場合
で、時間をかけても解決できないパターンがあるんです。
フレーム精度が悪すぎて、何をやっても隙間が出来ずに音鳴りしてしまう場合ですね。(中にはブレーキ側の問題もあり)
何がどうなって擦れ続けるかというと、こんな感じです↓
普通はローターに対してキャリパーも平行であるはずなんですが、フレーム側ブレーキ台座が斜めだったり、塗装が乗ってたりすることで、ボルトを締めるとキャリパーが斜めに傾いてしまうんです。
だから、ローターの手前側は擦れていないのに、奥側で擦れる(あるいはその逆)という事態になるわけです。絶対にどこかが擦れてしまう。
何度やり直してもダメです。
「こりゃー参ったな」ってなる車体がたまに…どころか普通によく出てきます。
当然、擦れたままではお客様にお渡しすることが出来ません。
ブレーキ台座のフェイシングとは?【工具:DT-5.2】
そこで行うのが「ブレーキ台座のフェイシング」です。
ブレーキキャリパーが斜めに固定されてしまうのは、そもそもフレーム側のブレーキ接地面がわずかに斜めになってしまっているから。
それをフェイシング(表面を整える)ことで、本来の“平行”に戻す作業です。
ディスクブレーキ台座のフェイシング工具はパークツールの「DT-5.2」を使っています。
10万円ほどする工具なので、個人で持っている人はほとんどいないでしょうね。
ショップでも、ママチャリメインの店では持っていないところも多いと思います。
買う人はいないと思いますが、フラットマウント・ポストマウント・IS全て対応しています。
ブレーキ台座のフェイシング作業
こちらの車体は、まさに「ブレーキが斜めになって何をしても擦れる状態」でした。
目視では平面に見えるかもですが、ここにわずかな傾斜が生じていると考えられます。
正直やるのは大変ですが、やるしかないのでフェイシング作業を行います。ハァ…。
平行を測定→切削工具を当てて削る という流れです。
グリグリと削っていくと、台座表面がこのようになりました↓
右側半分が銀色になっており、削れていることが分かります。
逆に左側半分は刃が当たっておらず、削れていませんね。
つまり右側半分が左側半分に比べて隆起していたってことです。
均等に平面ではなかったというわけ。
面をそろえるために、刃が面の全てに当たる位置まで削っていきます。
こんな感じで、削れた部分が一周の“面”になりました。これでOK。
ただ、一方だけ削るとブレーキ台座2つの位置に高低差ができてしまいます。
もう一方もフェイシングしつつ、同じ高さになる位置まで削っていきます。
ブレーキを戻す
フェイシングが終わったので、キャリパーを戻していきます。
画像では分かりにくいですが、正しく平面になりました。
おかげで隙間が出来て、擦れないようになりました。
あとは細かい調整をしていくって感じです。
やはりブレーキ台座に塗装が乗ってしまっていると、斜めになることが多いですね。
どれとは言いませんが、「このメーカーのこの車種はいつもブレーキが擦れるよなあ…」みたいなのも色々あります。ホント大変です。
傾向として…
全てではありませんが、傾向としてやはり価格が低くなるほど精度不良は増えてきます。
もちろん、中には高級車でも斜めになってしまうものもありますが。
「ディスクブレーキで一番調整が難しかった車体は?」と言われたら、経験上、通販で売られているような激安機械式ディスク車ですかね。
調整で済む範囲ではなく、どうしようもなかったです。ウーン……無理だ。て感じでした。(笑)
ディスクブレーキ センタリング工具も意味がない
ディスクブレーキのセンタリング工具というのがあります。
「これを使えば隙間を確保しつつ簡単にセンターが出るよ!」というのものですが、これもあくまで精度がいい場合だけです。
自分も使ったことありますが、そもそもフェイシングが必須のような車体では、この工具を使ったところで解決しませんでした。
ですので結局スグ使わなくなりましたね。
さいごに
ご自身で調整をする中で「どうしてもディスクブレーキが擦れる。どうやっても解決できない!」というのなら、もしかすると調整のスキル不足ではなくて、単にフレーム側の精度が出ていないのかもしれません。
ボルトを固定したときにキャリパーがわずかに傾くようなら、その可能性大です。
フェイシングをすると良くなることがほとんどなので、一度試してみてはどうでしょうか。
ちょっと独り言チックな記事でしたが、誰かのお役に立てればと思います。